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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第二幕「無敗の騎士王」

 
 新しい藁を敷き直して整え
 古い水を捨て、新しく汲んできた水で桶を満たし
 飼葉を運んできて、古い藁を捨ててくる。

 こう言ってしまえば、なんだかとても簡単で、楽に終わってしまいそうなイメージが湧くのだが
 実際は、どれも未経験者が音を上げるには十分な重労働で
 一言で説明するのなら・・・かなり腰に来る。

 馬具を外し、馬の汗をしっかりと拭い終えた後に

 もはやすっかり一連の流れとなっている馬の世話
 それでも、額に汗が浮かぶほどには、肉体的にはきつい。
 慣れていようがいまいが、労働量自体は変わらないのだ
 無駄な時間や無駄な力が入らないというだけで。

 額の汗をタオルで拭いながら、元の持ち主である少女
 フィオナの悪態を思い出して、苦笑する。

 あの娘が、こんな重労働を額に汗してやっている姿は、想像できないな・・・

 言葉の端々に、生意気盛りな子供っぽさと、負けん気の強さが現れていた。
 何より、あの時間に一汗かいて練習を終えていたという事は、ほとんど日の出と共に馬を引っ張り出してきて、練習を始めたことに成る。
 体力的にも、こんな重労働をこなせるとは思えない。
 その上・・・

 生来のものとは思えないほど、彼女には余裕がなかった。

 正直な所、そのやる気や姿勢は賞賛に値する
 いや、相手は年下の少女であるが、尊敬すらしている。
 例えその行動が、人に練習をしているところを見られたくない、と言う理由であったとしても
 早朝、陽もあけやらぬ程の時間に、一人で練習に打ち込むということが出来る人間は、かなり少ない。

 その切っ掛けが、見栄だったり、子供っぽい格好つけで有ったとしても

 実際に、練習を行った時点で、その見栄や格好つけは、安っぽいとは評せないだけの代物に昇華する

 それに・・・鎧を着ての乗馬姿が、一年生とは思えないほどに、様になりすぎていた。

 あれは、圧倒的に長い時間、鎧を着て馬上で過ごしてきた証だ。
 一朝一夕には決して身につく代物ではない・・・
 ジョストに限らず、個人競技というものは、対戦相手はいるものの・・・
 本質は自分との戦いだ。

 努力して、練習した分だけしか、実力は身につかない。

 フィオナは、積み重ねてきたのだ

 練習を、そして努力を

 その彼女が、誰にも見られず悔し涙を流していた・・・

 一年の試験が終わって間もない
 まだ誰も練習をしようなどと思わず、入学気分に浮かれ
 新たな生活環境に浮き足立っている、この時期に。

 これは・・・例の噂が、俄然真実味を帯びてきたと言うことだ。



 今年の新入生には、ジョストの天才がいる。



 頬に寄せられた愛馬の顔を撫でる手に、馬のほうがもっと撫でろと顔を押し付けてくる。
 まるで人語を理解するかのように、いや・・・
 心の中を読めるかのように、キラキラした目で見つめてくる相棒に
 本当に人間を相手にしているかのように、ごく自然に静馬は語りかける。

「時に質問だが、あの子の馬の世話をしたら・・・
 君は嫉妬するのだろうか、夜風?」

 誰かが見ていれば、怪訝な顔で見られるような行為だが、此処ウィンフォード学園ではそれも無いであろう。
 騎士科やベグライター科だけでなく、普通科に属する学生であろうとも、この学園に入学したということは、ジョストが好きなのだ。
 騎士が、ベグライターが馬に語りかける光景も、此処では珍しくなく、否定的にはとられない。
 ジョストは、騎士だけでやるものではない、ベグライターと馬という、相棒が支えてこその騎士であるということを、ジョストが好きなものであれば少なからず知って、或いは感じているはずである。

 人と馬、どちらも黒毛である一対は、まるで兄妹のように寄り添い、夜風が鼻を鳴らす。

 そう言ったからには、どういった所で変える気はないのだろ?とでも言うように。

「君には全て御見通し、か。
 少し心配でね・・・日も明けやらぬ早朝に、果たして足元が見えたのかと」

 鼻先で背を押してくる夜風に、逆らわずに押され、微笑みながら手を上げ応え
 古い藁をのせた一輪車を運び出し、厩舎を後にする。

 ウィンフォード学園には二十を超える厩舎があるが・・・

 さて、彼女の馬は一体何処の厩舎なのだろうか?

 それを知らない自分に気付き、思わう笑ってしまう。

「なんだ、今日も馬に乗っていたのか、精が出るな」

 不意に背後から掛けられた声には、聞き覚えが有った。
 そして、さも此方が自分の存在を既に認識している、と言わんばかりの話し方も。
 此方が、古い藁を空けた一輪車を所定の場所に立てかけている途中にも関わらず、関係なしに話しかけ、返事が返って来るのが当然という態度にも。

「おはよう、とまずは言うべきではないか?たとえ親しき仲といえど」

 態とらしく溜息をつきながら、振り向いてまっすぐに相手の目を見据えてそう言うと
 相手は悪びれた様子もなく、ふむと小さく一言つぶやきながら、片方の眉を上げてみせる。

「確かに、お前の言うとことには一理ある。
 それで静馬、お前はもうベグライターを決めたのか?」

 肯定しながら、一向に朝の挨拶を返してこない相手に、肩をすくめて見せながら
 傍らにおいてあった荷物を持ち上げる、別段呆れた様子もない所を見ると、コレも普段の会話の流れなのだろうか
 それとも・・・そういう相手だ、という諦観か

 カイル・L・オルブライト、去年から何かと話しかけてくる、二枚目だがちょっと・・・かなり変わり者の男。
 本人曰く、超一流のベグライターで、いずれは歴史にその名を残す偉大な男、らしい。
 黙っていればモテるであろう、整った外見だが・・・

「態々、そんなことを聞きに来たのか?
 カイルの担当する厩舎ではないだろう、此処は」

 前述した通り、ウィンフォード学園には厩舎が多い。
 言うまでもなくひとつの厩舎に、馬が一頭などということはありえず
 コレも前述した通り、馬の世話というものはかなりな重労働なのだ。

 馬の世話をする専門の人間も、学園は雇っているが、それでも労働力は幾ら有っても足らず
 ベグライター科の生徒が担当を割り振られ、厩舎での労働に奉仕している。
 パートナーの騎士とその馬の世話は、ベグライターの役目である。
 厩舎の担当を嫌がる者はベグライター科にはいない。

「何を言う、親友を心配して態々早朝から足を運ぶ俺の友情がお前には感じられないのかっ」

 自覚してか、無自覚か、やけに芝居がかった態度をとるカイル
 確かに、真顔でこんなことを言うのは恥ずかしかろう
 だが、真顔でなくとも、こんなことを言われる方も恥ずかしいのだ。

 悪い奴ではないんだが・・・と、距離を置いてカイルと接する人間の心理も、十分に理解できる。

「此方のことより、お前は大丈夫なのか?
 大会まで、それほどのんびりしている時間はないぞ」

 軽く肩を叩いて促しながら、校舎の方へ連れ立って歩き出す。

 騎士はいい、言い方は悪いが大会参加の意志を表明すれば、最悪は学園側が見繕って誰かベグライターをつけてくれるだろう。

 だがカイルはベグライターである、騎士とは違い一人で練習していればいいという訳にはいかない
 騎士を見つけました、組みました、では終わらない。
 むしろ組んでから、試合に赴くまでがベグライターの仕事の場だ。

 その上、カイルは『完成された騎士』には興味を向けない、一風変わった美学の持ち主ときている。

「心配には及ばん、俺も何もせずに居るわけではないからな
 言ったろ、超一流のベグライターだと、何人かに目星はもうつけている」

 ベグライター、一般には聞きなれない言葉だが、ジョストと呼ばれる馬上槍試合に関わるものなら、知らぬものはいない。
 ジョストは、一対一で騎士が戦う競技だが、騎士一人で戦う代物ではない事は、ジョストに関わるもの
 とりわけ騎士であれば、身を持って知っているだろう。

 騎士は華やかのものではあるが、厳しく、孤独でもある。

 個人競技全般に言えることだが、己との戦いである以上、メンタルが大きく結果に左右する。
 なによりジョストは騎乗試合である、馬の調整や世話、自身の体調管理は言うに及ばず、相手の情報収集や戦術・・・たった一人でそれをすべてこなし、勝利するには無理がある。

 言い換えるのであれば、騎士が騎士として全力を出すには、騎士一人ででは限界がある。

 馬の世話を細やかにし、集めた情報を分析し戦術を組み・・・と、陰に日向にと騎士を支える者こそがベグライター。
 騎士の絶対の味方である、存在といっていい。

 それにより、騎士、ベグライターそして馬と、三位一体で成り立つのがジョストである。

「お前は去年も大会に参加しなかっただろう、今年も不参加では・・・些かまずいことに成る」

 カイルが不意に真面目な表情を浮かべて言ってくる言葉に、心のなかで謝罪しながら

「そうなったら、それは私がその程度の騎士であった、ということさ。
 カイルの人を見る目を見直す、いい機会に成るのではないか?」

 などと軽口で応える。

 カイルは去年知り合ってから、一度も自分をベグライターにしろと言って来なかった。
 即ちそれは、カイルにとって自分は『完成された騎士』と評されたということに他ならない。

「バカを言うな!
 『無敗の騎士王』などと陰口をたたく奴らの目の方がおかしい、お前は間違いなく一流の騎士だ。
 一流は一流を知ると言う言葉を知らんのか?もっとも俺は超一流だがな」

 ニヤリと笑いながら、自信満々にそう言ってのけるカイル。
 その自信が一体何処から来るのか、さっぱりわからない・・・

 入学して以来、去年の大会どころか、公式試合、練習試合すら一度もしていないのだ。
 件の渾名もそれを皮肉ったもので、最近でこそ『無敗の騎士王』などという、ベルティーユが間接的につけた、優雅な呼び名で呼ばれるようになったが
 以前はもっと直接的で『槍持たずの騎士』だの『騎士モドキ』だのと、なかなかに嬉しくないバリエーションが豊富であった。

 それが聞くに耐えなかったのか、それとも彼女の何かに抵触したのか



『未だ戦っていない方の実力を、予想で貶めるなどという恥ずべき行為はおやめなさい
 実はスィーリア様と比肩するほどの、実力者であるかも知れないのですよ?』



 そういったベルティーユには、全くこれっぽっちも悪意や皮肉は無く、想像で相手を貶めるなといっただけだったのだが、聞いていた方はそうは受け取らず。
 思う存分悪意や皮肉を込めて、戦ったことのない張子の虎とせせら笑いと共に、『無敗の騎士王』などという二つ名を拝命した。

 幸いにして、ベルティーユはそれが皮肉であるとは思っておらず、黙認し
 周りも一年も言っていれば、静馬に嫌味や皮肉を言うのも興味を失い
 最近では、何やら由来を知らぬ者にまで、尾鰭がついて伝わっているらしい。

「そういえば、カイルに一つ頼まれてほしいことが有るんだが」

 フィオナの馬が預けられている厩舎を尋ねてみようとして、自分も彼女の名前を先日まで知りもしなかったことに思い至り、一瞬ためらったのだが
 それでも静馬は、調べて欲しいと切り出した。

 カイルは自称・超一流のベグライターである。
 本人以外には冗談にしか聞こえないが、ベグライターとしての腕は、実際に低いわけではない。
 この年にしては、と前置きを入れるのであれば・・・実際、かなりやり手ではあるのだ。
 それは、情報収集という分野であっても、ズブの素人である自分より、はるかに高い能力を持っていると静馬は判断した。

 しかし、カイルの返答はあっさりと静馬の予想を超えて返って来る。

「それなら俺が担当している厩舎だな
 今朝も真新しい蹄の跡が厩舎の入口辺りにあった
 ・・・で、何者なんだそのフィオナ・ベックフォードと言うのは」

 軽く肩をすくめて、笑って返す。

「今のところは何者でもない一年生だが、将来の一流騎士・・・になる可能性はあるかな。
 ついでに言うと、美人・・・いや、美少女かな」

 鼻で笑い返されて、皮肉っぽい笑みをカイルが投げかける。

「天才騎士が入学してきたと、皆が騒いでいる中で・・・注目する一年生が、フィオナ・ベックフォードという何者でもない相手か。
 『無敗の騎士王』は天才など眼中に無い、とは何ともお前らしすぎて、笑えばいいのか?
 とはいえ、お前も一年生の天才に興味が全くないわけではないんだろ」

「興味がないものなんて、この学園にはおるまいよ」

 静馬の返事に頷いて返したカイルが、耳ざとく遠くから響く金属音をききつけ、眉を寄せる。

「すまんが俺は行くぞ、フィオナ・ベックフォードの事も少し調べておこう
 もっとも、件の天才一年のついで程度だが」

 言うなり、此方の返事も待たずに駆け出すカイル。

 幾人かに目星をつけているという事は、まだ本命は見つけていないということだ。
 朝の自主練をしている中に、自分の求めている騎士がいないとも限らない・・・そう思うと、居ても立ってもいられないのだろう。
 振り返らないカイルの背に、軽く手を上げて、まだ早い時間であることを確認すると
 カイルの担当厩舎の方へと足を踏み出し掛け・・・踵を返した。

 確かにフィオナの馬のことは、少々気になるのだが

 腹の虫が盛大に、抗議の声をあげていた。




   

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