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歪んだパズルのつなげ方

悲恋姫†無双

第十九話 月華恋霞、幽影を詠う淡雪の朧音

 
 洛陽の門を前に董卓軍の重臣とされる面々が集まっていた。
 月と詠を除く全員が

 武装し、旅支度を終え、緊張の面持ちではあったが。
 そこには悲壮感などはまるで無く、恋と一影に関しては全く普段通りですらあった。

「皆さんの無事を、お祈りしています」

 儚くも、強い瞳の月がそう告げると、皆が示しをあわせたように頷く。
「誰も・・・怪我なんかしないでさっさと帰って来なさいよ。
 留守の間、ボクと月の二人で書類仕事とか、警備の手配とか全部やるんだから。
 ・・・月が、寂しくなる前に、帰って来てよね」
 わざときつい言い方で、憎まれ口を叩く詠の声も、最後のほうはしんみりと、尻窄みになる。
「心配いらへんて、相手の兵隊が何人いるかわからんけど。
 恋一人で三万やろ、一影が三万に、ウチと華雄で頑張って三万・・・は、ちぃときついか。
 残りは売り出し中の幽にやるわ。そしたら楽勝やんな」
「私一人で三万くらい倒してやるぞ、以前の私とは違うのだ」
 笑いながらそう答える華雄に、にしししし、と何でも無い事の様に、とんでもない事を言う霞。 
「アタシ、残り全部なんですかぁ」
 真に受けて素っ頓狂な声を上げる幽に、皆の顔から緊張が溶け流れる。
「影よ、頼まれておったものを用意させたぞ」
 淡雪が手に持っていた、精緻なつくりの文箱を手渡す。
「今度は何の悪巧みよ、一影」
 すっかり、いつもの調子の憎まれ口を取り戻した詠が、箱を興味深そうに見ながら、白状しろと目で訴えるが、一影は軽く顎を上げ、詠を見下ろすようにする。

 なんだ、賈文和ほどのものが、これが判らないのか。

 無言でそういわれたと悟った詠が、真っ赤な顔をして悔しがると、淡雪がそれを見て噴出す。
 淡雪は、すっかりこの面々と一緒にいることになれ、自然な表情をするようになった。
「なんやー詠はそれがなにか、わからんのかいな」
「馬鹿だな賈駆、一影が貰ったのは、魔法の箱に決まっている」
 霞と華雄にまで馬鹿呼ばわりされ、すっかり頭に血が上った詠が怒鳴りかけるのを、月が「まぁまぁ」と嗜める。
 まるっきりいつもの光景。
 これから戦争をしにいくとは思えない。

 そのとき、霞がふっと思いついたように顎を挙げ、つつっと一影の横に寄り添う。
「一影、ほれ例のアレは今やるんとちゃうか」
 言われて、何の事かと少し考えてから、思い至る。
「確かに、いまが最適か」
 その返事に、拳を手の平に叩きつけ、よっしゃとにんまり笑う霞が皆に向かって右手を突き出し、親指を立てる。
「ほな、みんなグッドラックや」
 他の全員がきょとんとした顔をするなか、朧がこれは何なのですかと、抱かれた腕の中から見上げてくる。
「再会を約す、幸運の呪いだ」
 そう言って、一影も同じように顔の前で親指を立てる。
「グッドラック」
 皆の顔に理解の表情が広がり、ぎこちなくも心を込めて、皆が親指を立てていく。
「ぐっどらっくです、皆さん」
「グッドラック、怪我なんかしたら承知しないわよ」
「グッドラックだ」
「ぐっどらっくなのです」
「ぐっどらっくですよぅ」
「グッドラックじゃ、吉報以外受け付けんぞ」
「・・・ぐっどらっく」
「ぐ、ぐっとらっくです」

 皆が視線を交わしあい、一影が羽織を羽根のように派手にはためかせ、その身を翻す。
「出陣」
 その声に、応と低い声で答える『魔王の軍』。
 他の軍では鬨の声があがり、それぞれの任地へと旅立っていく。
 董卓軍出陣、その噂を聞きつけた洛陽の民達が城門の内から大きな歓声で、その背を送り出した。
 自警団もそれを諌めようとはせず、あるものは泣きながら無事を祈った、見慣れた気のいい将達の留守を預かる決意をむねに。



 水関を遥か遠くに眺めやりながら、これを陥落させる事が本当に出来るのか・・・と言う思いが胸にわく。
 それ程の威容を誇る、それはまさに難攻不落の大要塞、素人目に見ても、寄せ手側に圧倒的に不利な事が理解できる。
 何しろ・・・陣地を構築する場に行き着く前に、心に重くのしかかるのだ。
 臆病風に吹かれたか、春蘭あたりであれば、そう言って怒る・・・いや、違うな、笑われるだろう。
 しかし、いかな春蘭と言えど、あの見るからに厚く高い水関の壁面を前に、平原の戦いのように突撃し、食い破り、蹂躙することは出来ない。
 そうなると当然考えられるのが弓で・・・遠近攻防、なんと全てに対応の出来る姉妹なのだろう。

 これは、多分偶然ではない。

 姉の才を早々に認め、それを生かし、尚且つ隙無く全ての戦局に対応できるように、そう秋蘭が取捨選択を行った賜物。
 その気付きに、常に半歩高いところから見守られているような、秋蘭に対する印象をいや増しに強くさせられる。
 此処に来て、秋蘭という強力な攻撃手段が此方の手にあることは解った、では自分は何か役に立てるだろうか・・・出来るとしたら、それは物理的な方法ではないだろう。

 頭を振って、意識を水関に戻す。
 思い出すだに頭が痛くなるアノ会議の結果、連合軍の先鋒は公孫賛と劉備の軍が受け持つ事に決まった。
 挑発に載せられた公孫賛はまぁ自業自得だが、弱小故に押し付けられた劉備は流石に、少し同情の念を禁じえない所がある。
 つまりは、良くて露払い、悪くなれば捨石とそういう役回りだ。
 その二つの軍、片や騎馬が主戦力で、片や兵力不足が否めない感のある、乱世で頭角を現してきた新鋭・・・はっきり言うなら役者不足だ。
 いくら後々には蜀の王となる人物だろうが、『伏龍』『鳳雛』と呼ばれる天才軍師がいようが、関羽、張飛、趙雲という後の五虎将軍がいようが、篭城戦をされれば、単純に兵力が足りない。
 今の劉備は義勇軍上がりの、上手く風を捕まえることの出来た、そこらの成り上がりの一人と、兵力的には断じられる。

「なぁ桂花・・・」
 同じく物理的には役に立たぬであろう、猫耳フードの少女に馬を寄せて声を掛ける。
「なによ、気安く話しかけないで。
 アンタなんかと口を利いても、私が不快になるだけじゃない」
 そっぽを向いて、憎憎しげにそう言う桂花は、それでも馬を離そうとはせず、その背中が何処と無く、話の続きを促しているようにさえ見える、勘違いなのだろうが。
 言葉通り本当にそう思っているならば、無視すればいいだけなのだが、律儀に返事をして来る辺り、桂花も付き合いが良い。
 もしかして職業病なのかもしれないな、一刀はふとそんな事を考える。
 軍師とは、誰かに話を聞いてもらって、初めて成り立つ職業。例え否定的なことを言ってでも、自分は此処にいるとアピールし、聞くだけは話を聞くという態度を崩さない。
「あそこには華雄と呂布がいるんだろ。
 ・・・公孫賛と劉備で倒せるはず無いじゃないか」
 細作の集めた情報は、華琳の傍にいることが多い一刀の耳にも良く入る、華雄は関羽にあっさり倒される、演義ではそうなっていた・・・では案外上手く行くのか、とも少し思ったが、呂布がいてはとてもそうとは思えない。
「当然でしょ・・・と、言いたいところだけど。
 諸葛孔明が指を咥えて、馬鹿みたいに攻城戦をするとは思えないわ。
 あんたが言ったんでしょ、私に並ぶ程の軍師だって」
 そっぽを向いていた視線をようやく一刀に向け、桂花が真直ぐに睨んでくる。
 少なくとも、嫌いな相手の言葉だからと、その内容まで間違っているとするほど、桂花は愚物ではない。
 それが確認できて、何故か単純に一刀は嬉しさがこみ上げる。
「桂花なら、どう攻める。・・・どう守る」
 それでは、孔明の次に打つ手は何なのだと問いかけると同時に、桂花にはそれを防げるかと、プライドと知的好奇心をくすぐる。
 馬を進めながらの会話なので、少し大きな声になりがちなところを、「そうね・・・」と桂花が声を潜めて何かを考え始め、ハッと弾かれたように顔を上げる。
「何で私が、アンタなんかにそんな事、教えてあげなきゃいけないのよ、この孕ませ男」
「相手が呂布だからだ」
 即座に返された一刀の真剣な声に、桂花はばつの悪そうな顔をして唸る。

 こういうときの桂花は、案外可愛いよな。

 僅かに歯噛みしながらも、それでも真面目に考えてしまう桂花の姿を、思わず優しい目で眺めながら、そんな事を思う一刀。
 相手の意見が正しいとわかれば、ぶつぶつ文句は言いながらも、真剣に相手をしてくれる桂花は、こういうと桂花は火がついたように言い返すだろうが・・・一刀にとっては話安い相手ではある。
「人和の話でも、人知を超えた怪物だし、俺の知っている呂布も、まぁ程度の差はあれ、やはりそうなんだ。
 万が一にも華琳を危険に曝すわけには行かない」
 なによ孕ませ男の分際で、そんなに真剣な顔したって、恐れ入ってやったりなんてしないんだから。
 大体この私がついていて、董卓軍なんかに指一本だって触れさせるもんですか。

 袁術が先走って、孫策が負けたことは連合でも既に広まっている。
 糧食をろくに回さずに戦わせれば、当然の結果だが、それこそ袁術の軍相手なら勝てるのではないかと言うほど、孫呉の兵は強い。
 将も孫策、周瑜、黄蓋と名だたる勇将、知将がいるのだが、それを歯牙にもかけずに跳ね返したとなると、呂布の武には・・・寒気がする。
「呂布と華雄の、個人での武勇が凄いのは知っているが、それがどれほど凄まじいのか、将としてはどうなのか俺にはわからない。
 先鋒を抜いて華琳の所まで来る程なのか、伏せ討ちを仕掛け本陣を急襲するような用兵をするのか」
 俺の言葉が終わる頃、兵が一人駆け寄ってくる。
「申し上げます。水関の守将は呂布一人。華雄は兵を連れ虎牢関に下がったとの事です」
 その言葉を耳にした瞬間、今まで沈思黙考していた桂花が、甲高い声を上げる。
「なんですって。
 何故一体・・・とにかく華琳様のところに。
 一点突破で呂布が抜いてくる可能性も出てきたわ、アンタ呪いでもかけたんじゃないでしょうね」
「そんな事するか」
 じとっとした目を向けてくる桂花、冗談だとは思うが、それは許せないたぐいの冗談だ。
 流石に怒鳴り返す。
「あら、二人とも随分仲がよくなったのね」
 クスリともニヤリとも見える笑みを浮かべた華琳が、不意に姿を現し声を掛けてくる。
「華琳様、よしてくださいこんなやつと仲が良いなどと」
 即座にそう、嫌悪感も露にそう言い返す桂花を無視して首をめぐらせ、真正面から華琳の目を見つめる。
 経験から、桂花に此処で言い返すと、際限なく言い合いをする羽目に陥る。
 暇な時にならばそれもいいが、此処は戦場、今はそんな時間も暇も無い・・・。
 いつに無く真剣な光が目に浮かんだのを、華琳はすかさず捉え、顔から笑みを消す。
「どうしたの一刀」
 その声は心配ではなく警戒に彩られ、質問ではなく詰問のように、強く先を促す。
 華琳の気配が変わったのを、敏感に感じ取った桂花もすかさず口を噤む。

「水関は呂布が守将だ。何かがおかしい」

「それは天の知識なの一刀」
 スッと目を細めて、真正面から見据えてくる華琳からは、覇王としての迫力が圧し掛かって来る。
 此処で下手な事を答えたら、即座に首を刎ねられるのではないか、という感想を洩らしても、大げさだと誰も笑わないほど、冷厳とした表情の華琳が静かに問うていた・・・お前は、私の覇道を穢すものなのか、と。
「いや、俺個人の・・・なんというか、勘だよ。妙な違和感を感じる」
 頬をかきながら、ちょっと困ったような笑みを浮かべてそう答える一刀。
 華琳と桂花の表情の変化はまったく見物だった。
 一瞬二人は、全く同時にきょとんとした顔をして此方を見、桂花が憎憎しげな表情に顔を歪ませ、口を開き今にも毒を吐こうかというまさにその時、華琳の実に楽しげな笑い声が響き渡った。
「それじゃあ貴方は、何かおかしいと感じたから、我が軍に『臨戦態勢を敷け』と、この曹孟徳に命令させようと言う訳なのね、一刀」
 そう言葉にして耳から入ると、確かに我ながら無茶苦茶な事をいっているなとは思うのだが、ここで笑って「確かにそれは無茶だ」と流すくらいなら、はじめから口になどしない。
「あぁ、そうだ。
 此処はもう戦場、不意を突かれて文句を言っても、誰も聞いてくれない。
 不意を突かれるほうが悪い。
 警戒する此方を笑う者には笑わせておけばいいさ。
 でも、不意を突かれて笑われる訳にはいかない」

 皆の命が掛かってるんだ。

 一刀の目を覗き込むように凝視していた華琳が、軽く目を閉じ小さく頷く。
「・・・いいでしょう。
 桂花、全軍に警戒態勢を取らせなさい。春蘭の隊を正面に秋蘭の隊を後面に配備。本体の左右は、季衣と流琉の隊で防御を固めさせておきなさい」
「御意」
 桂花が返事と共に、配下に命令を伝え走らせるのを目の端で確認しながら、華琳は面白がるように口角をわずかにあげ、視線を一刀に戻す。
「さて、貴方の勘にのってあげたわ。それでは説明をなさい」
 当然の事の様に、華琳はどこに違和感を感じたのか、自己分析をして説明することを求めてきた。

 今まで自分に、こんな曖昧な根拠を理由に進言して来た者などいなかった、これからもいないだろう。
 だからといって、正しい進言を容れないほど、華琳の器は小さくない。
 大軍を動かすときには、少数の精兵による奇襲が一番対処に困るのも事実。
 それも連合軍のように、横のつながりが薄い、今のような大軍なら、尚の事混乱が恐ろしい。
 それには此方が隙を見せない事が肝要、一刀の言葉を華琳が補足するならばそう言うことだ。
 一刀の違和感は、当然華琳も引っ掛かり、自分の中では答えが出ている。
 しかし華琳は一刀自身の言葉での説明を求めた。
「董卓軍で呂布は間違いなく最強の将だ。なら水関より虎牢関に置きたがるのが人情って物だろう。
 仮に水関におくなら、ここで連合を受け止めるために置く。
 それなら華雄を虎牢関に退かせる意味が解らない」
 『天の御使い』を名乗らせている男は、相変わらず妙な視点で物を見る。
 華琳は最近、その妙な視点からみえる世界に興味を抱いていた、彼には世界はどう見えているのだろうか、と。
「なるほど、しかし呂布を捨石にするつもりでないのなら、狙いは何だと思うの」
 いかに呂布が人知を超えた武勇の持ち主でも、この連合軍を一人で相手に出来るはずがない。
 現に、一刀も劉備の兵数が少ない事は、将がいくら優秀であってもどうにもならないと、自身結論つけている。
「・・・わからない」
 そう、つまり何を目的にしているのか判らないから、董卓軍の動きを『妙な違和感』と表現するしか出来なかったという事か。
「桂花、答えなさい」
「はっ、呂布の強さを見せての士気低下かと」
 桂花の低く抑えられた声、軍師である自分の頭越しに、華琳に軍を動かす決断をさせられた桂花は、自尊心を大きく傷つけられていた。
 その意見は、理にかなっており・・・そのくせ、一刀本人は敵の意図を見抜けないほどの素人なのだ。
「華雄がいれば、呂布には敵わないという印象と共に、華雄はそれ程恐くないとの印象をだき、兵士の心は逃げ場を与えられます。
 しかし、呂布一人が将であるなら、呂布の強さ、恐ろしさだけが大きく刻まれ、水関を抜いても、呂布が現れるたびに士気が低下していきます」
 そして、言うまでもない事ですが長期の遠征軍では、糧食と士気の確保とが最も難しいものです。桂花はそう言葉を結んだ、最後のは一刀に対する補足の説明なのだろう。
「つまり、敵は此方の兵站ばかりではなく、兵士の心も読んで手を打っていると言う事。
 ・・・連合軍を、ただの烏合の衆にする気なのね」
「御意」



「荀文若、曹孟徳あたりなら、ここまでは読み切って来る」
 偵察に出て、隙あらば奇襲を掛けろ、隙が無ければ見つからずに戻れ、と命じられて出て行った幽が
「主様ぁー、曹操軍には全く隙がありませんでしたー」
 と半泣きになりながら逃げ帰ってきた。
 史実とは違い、この前の世界と同様、曹操軍は待ち伏せで被害を被ることもなく進んできたか。
 そのまま給仕役になった、幽の煎れた茶を一口飲み込み、少し感心する。
「幽、茶を入れるのが上手いな」
「ひやぁ、あ、ありがとうございます」
 予想外なところで褒められた幽が、驚いて妙な声を上げるのに、ねねが小さく溜息をつく。
 この赤髪を二つにくくったメリハリに乏しい体つきの少女が、巷では『魔王の片腕』などといわれる猛将だと、どうしても思えないといった顔だ。
「孫策を退け、袁術にも被害を与えた幽がそう言うなら、間違い無いのでしょうな。
 劉備には影殿が楔を打ったと言うなら、残りは袁紹、曹操、公孫賛だけなのです」
「馬騰さんの所とは、ねねちゃんが密約を交わしているので、実質の敵は約半分と言う事ですか、お兄様」
 朧は当然のように一影の膝にすわり、幽から受け取ったお茶をコクリと飲むと、その背を一影の胸に預ける。
 そんな朧をねねは羨ましそうに、妬ましそうに眺め、チラリと視界の隅に映る恋に視線を飛ばした。
 恋はといえば、大軍が押し寄せるのも間近という中、のんびりと日向ぼっこをしながら転寝をしている。
 本当であれば自分もすぐさま横に行き、恋と一緒にいたいのだが・・・軍師としての立場上、ねねにはそれが許されず、心の中でそっと悔し涙を流す。

 ・・・という緊張感の欠片もない董卓軍の面々。

「いや、曹操軍の動きも鈍らせる。その為の用意はしてある」
 一影のことばに、幽が頷き長持のほうへと視線を向けた。
「細作の集めた情報では、敵の先鋒は予想通り、公孫賛、劉備の二つの様なのです。
 恋殿は公孫賛軍を突貫し、返す刀で劉備軍を蹴散らす・・・でいいのですな」
 最終確認とばかりに念を押すねねに、一影が小さく頷き返す。
 もはや語るべきことは無いほどに、作戦は詰めた。
 今更、作戦の変更はありえない。
「朧とねねちゃんで関の防衛。お兄様と幽お姉さんが劉備軍・・・やっぱり変ですよぅ、その配置」
 朧が不安そうに小さく、あうぅと呻る。
「劉備軍の将を討ち取る目的ならば、恋と二人で行く。
 今回は兵を減らすのが狙いだ、劉備の将に恋の足を止められたら負けだ」
 髪をくしゃくしゃと撫でてやると、再びあうぅと、今度は嬉しそうに呻る。
「頭ではわかっているのです、でも・・・」
 どこか不安そうな目で見上げる朧には、何が見えているのか。

「影殿は、恋殿に並ぶ武勇の持ち主、何も心配は要らないのです」
 最初に会ったときには、一影の武自体は大した事はないと断言したねねが、自信満々に朧にそう言ってのける。
 初めの立ち合いの後、恋はまるで恋する少女のように一影に執着し、せがんでせがんで、せがみ倒して幾度も手合わせを願い、修練してきた。
 それは恋一筋を公言するねねが、嫉妬するほどの執着であったが、一影に恋を取られる危険がないと早々に悟ったねねは、涙で枕をぬらす事も無く。
 冷静に恋の執着を見つめていた。
 天下無双といわれ、これ以上磨きようの無かった恋にとって、自分に土をつけた一影の存在は大きく、立会いで感じた恐怖を大きく上回るほど、一影の存在を求めた。
 もともと実力は、並ぶものの無いと称される恋であったが、今ではその背を見ることの出来るものすら少ないといっていいほどに磨き抜かれつつあった。

 ダイヤを磨くには、ダイヤを磨ける硬いものが無ければならない。

 ダイヤはついにその身を磨けるものと出会い、輝きを弥増したのである。


   

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