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歪んだパズルのつなげ方

悲恋姫†無双

第十四話 幽玄なる影朧の恋詠

 
 一影の目の前には、一糸乱れぬ隊列を組んだ軍団、その数八千。

 恋、霞、華雄の隊から集めて出来た新設隊・・・はみ出し者の掃き溜め。

 わざわざ一瞥するまでもなく、ちゃんと整列しているのは先頭のほうの見える所まで、その後はだらけきっている。
 昨日までは一騎当千の、自分の慕う将軍の元にいたのに、なんだって急にこんな海のものとも山のものとも・・・何処の馬の骨ともわからんやつに、従わなきゃならないんだ。
 大半の兵士達の思いを言葉にするならば、こういうことだろう。

 黒衣の若造が、腕に幼女抱えて、これからお前らの将軍。と言い出せば、頷けるほうが、まぁ珍しい。
「城壁の上を五周、全速力でいけ」
 低いが良く通る声が八千の兵の間を駆け巡り、恐怖に襲われた民衆のように雪崩を打って駆け出す。
 黙って同じ位置に立つ一影の目の前に、そっぽを向いて同じく同じ位置に立ち続ける八千分の一。
「お前は、行かないのか」
 歩いてその兵の下へ近づく、揃いの装備で近寄るまではわからなかったが、どうやら女のようだ。
「いやだね、あんたに命預けるって、決めてもないのに命令聞くなんて」
 フンッとそっぽを向いて、ぎらつく鋭い目を向けてくる。
「・・・あぁ、そうか」
 朧を降ろし、オレの後ろに回るように目で促すと。
 無言で頷き、にっこりと微笑んでくる・・・何をするつもりか解ったらしい、流石朧と言うところだ。
 その頭を撫でてやりながら、振り向きもせず逆の手で女の喉を掴み上げる。

「良いか兵隊良く聞け、お前等は義勇兵じゃない。
 金もらって食うために、人を殺す事を仕事に選んだロクデナシだ。
 上からの命令は絶対なんだ、オレが『そのまま死ね』と言ったら・・・そのまま死ね。
 お前らは、死ぬのも仕事だ」
 真正面から目を覗き込み、ギシギシと音を立てながら、左手が女の首を締め付けていく。
 四肢の自由が奪われて、暴れようにも暴れられない女は、強気な表情が抜け落ち、その目を恐怖に沈めていく。

「どうした、解ったなら返事をしろ」
 喉を締め付けられ、声を出せない女はそれでも必死に返事をしようとする、一影の声に感情が全くこもっていない事に、更に恐怖が募っていく。
 この人は、全く気が付かずに、このまま私を殺してしまうのかもしれない。
 殺そうとしてでは無く、ほんのちょっとした手違いで。
「まだ反抗するのか、なかなか骨のある奴だ」
 一層首を締め付ける左手の指に力がこもり、涙が零れ視界が歪む、次第にその視界が狭まっていき・・・追い詰められた、死の恐怖に・・・失禁する。

「さあ、お前の名前は何と言う」
 
 この人は、本当に私をコロシテシマウキダ。
 何て・・・恐ろしくも、美しい人なのだろう。
 絶望に目の光が失われる寸前、喉の圧迫が無くなり、酸素が肺に急速になだれ込んできた。
「・・・徐栄・・・徐栄です、字はありません。真名を幽」
 未だに歯の根の合わないまま両膝を突き、拳包の礼の姿勢をとる幽の頭をぽんと叩く。
「オレが死ねと言えば、お前は死ねるか」
「はい主様、死にます」
 くしゃくしゃと、二つ縛りにした頭を撫でつける。
「ならばそんな小便臭い兵隊の鎧は脱いでしまえ。
 幽お前を副官に命ずる。ロクデナシ共を兵隊にしろ・・・半分はいなくなってもいい」
 一影のその言葉に、恐怖半分、憧れ半分の眼差しを向けた少女。
「はい主様」
 朧を抱き上げながら、一影が幽を振り向く。
「我が名は一影。
 幽、お前に最初の命令を与える。
 オレが死んで良いと言うまで、死ぬ事を許さん」
 幽がボロボロと再び涙を零し始める。
「はい・・・はい、一影様。幽は決して死にません」



 周辺の賊討伐のローテーションに、一影の率いるならず者の寄せ集め部隊が、組み込まれるようになって暫くたったころ。
 妙な噂が董卓軍内部に流れ始めた、一影と朧、軍師が二人もいて、策も無く賊にがむしゃらな突撃を繰り返し、被害が出続けていると言う。
「・・・これって、絶対内部からのタレ込みだと思うのよ。華雄と霞のほうで何か聞いていない」
 詠が眉間にしわを寄せながら、自分の執務室に呼んだ二人の意見を求める。
「正直なところ、あの部隊で被害を出すのは仕方が無い」
 実直に華雄が、しかつめらしい顔をして擁護する。
 三分の一は自分のところから捻出した兵だ、それも程度の低い者ばかりを出している自覚があるので、自然擁護ぎみになってしまう。
「霞、貴女の意見はどう」
 腕を組んで唸っていた霞には、一つの思いがあった

 ・・・多分、一影がやっているのはアレや。

 ただ・・・そのやり方は成功するんかウチにはわからん。

「一影はな・・・多分、化物をそだてとるんよ。ただぁ、被害が大きすぎるってことなら、本人に直接相談したほうがエエ」
 謎掛けのような霞の言葉に、釈然としないままの詠は二人を帰した後、やはり気になって直接一影のところに乗り込むことにした。
 もっとも、一影と朧に当てた部屋にも、執務室にも二人の姿は無く、入り浸っていると言う話の喫茶店にもおらず・・・たまたま肉まんを前に、じっと座り込んでいた恋を見つけて、一影達の行き先を聞きつけた。
「・・・おにぃ達、第二練兵場・・・恋も、後で手合わせ行く」
 軍師だって言うなら軍師らしく部屋で書類相手にしてなさいよね、まったく。
 ぶつぶつ文句を言いながらも、恋と一影達に肉まんを買って行く詠。
 第二練兵場は整地されて久しいため、地面が平らではなく訓練時のけが人が多いので、割と敬遠される所である。
 なんだって態々そんな所を選ぶのよ、被害多数で定員割れしてるってのに。
 ぶつぶつと小声で文句を言いながら近づく詠の耳に、とんでもない声が聞こえてきた。
「ダメだ・・・話にならん。お前ら家に帰って鍬でも持ってろ、このロクデナシ」

 神経を逆なでするような、馬鹿にし腐った若い女の声に、怒気が膨れ上がった。
「そんなチンケな怒った顔で、アタシがびびると思ってるのか。
 笑わせるな、お前ら全員より主様一人を敵に回すほうが、百倍恐い。アタシをびびらせたきゃ五十万の兵隊連れてきな」
 その膨れ上がった怒気を、あっさり笑い飛ばした明るい少女の声に、動揺する。
「どうした兵隊、主様の役に立たない盆暗は邪魔だ、別の将の部隊に行け」
 少女の煽りに、怒気が更に上がっていく。

「足手纏いはいらない、お前等は盆暗か」

 否、低い力強い返答は、問いかけた少女を呪い殺す呪詛のよう。

「主様が死ねといったら、お前等は死ねるか」

 応、低い力強い返答は、問いかけた少女を崇める祈りのよう。

「百万の大軍を目の前に、主様が突撃と言われたら」

 突撃、低い力強い返答は、問いかけた少女を押しつぶすよう。

「たった一人の敵を目の前に、主様が撤退と言われたら」
 
 撤退、低い力強い返答は、問いかけた少女を引き摺っていくかのよう。

 詠の足が第二練兵場に着いたときに、部隊の前に一人で立っていた少女が、一影のほうをくるりと振り向き、にっこり笑いながら。
「主様、たった今部隊を掌握完了いたしました」
 二つに縛った髪を揺らしながら、恭しく礼をする。

「ご苦労、幽・・・見事」
 一影のその一言でパァッと表情を輝かせ、はい、と大きく頷く。
「その子が貴方達の選んだ副官ってわけ、一影、朧」
 反射的に幽が噛み付きそうになるのを、一影が手で制し、幽も相手を詠だと悟って後ろに下がる。
「詠お姉さんの、心配事はたった今解決したところですよ。
 幽お姉さんは将才がある。お兄様の指示を的確に部隊に伝える、その組織編制は、幽お姉さんが一人でやったものだから。将軍さんと同じお金払っても良いくらいです」
 詠が目の前の部隊を見ながら、ごくりと唾を飲む。
「霞が言ってた、一影は化物を育ててるって」
 朧が感心したような顔を向ける。
「霞姉さんは、流石です。恋姉さんを足止めできますよ、この部隊なら」
 朧のさり気無い一言に、聞き流しかけた詠の動きが止まる。

 ・・・いま、朧は何て言った。

「それってどういう・・・」「詠お姉さんが、今思っている通りの意味です。だから聞き返さなくても大丈夫ですよぅ」

 言葉をかぶせられて、やっと理解した。
 確かに化物だ、そんなもの作ろうと言う発想が、まず普通は浮かば無い。
 自分に与えられた配下を人為的に、常時死兵となさしめる。
 幽の反応を見ている限り、日常においては元々の性格での生活を送っているようだ。
 二千の犠牲を出して、六千の精鋭を擬似死兵と化す、これを化物を育てると言わずして、なんと言おう。

 何て恐ろしい事をするのだろう、一影は。

 何て恐ろしいものを知っているのだろう、朧は。

 何て恐ろしいものにつかまったのだろう、幽は。

 何て恐ろしくも頼もしい客将たちだろう、この二人は。

 一影の提案により、この部隊は旗を揚げず、基本的には恋、霞、華雄の部隊に追従し、切り札的にごり押ししていく部隊として運用される。
 その事により、董卓軍の恋、霞、華雄どの部隊も負けず劣らず精強で、真紅の呂、紺碧の張、漆黒の華の三つの旗を見ると、黄巾党が逃げるとすら噂が流れる程になり、自然と董卓軍の名とその三将軍の名が、世間に知れ渡っていく事になった。



「呂布、ずるいぞ。お前はこの前手合わせしただろうが」
 かなり真面目に立腹の様子の華雄に、恋は全く取り合う様子もなく。

「恋様ぁ、ずるいですよー。アタシも主様にお稽古してもらいたいですー」
 ぶーぶーと、ふて腐れた幽もあっさり無視して。

「恋、たまにはウチにも譲ってほしぃわ。最近アンタめきめき動きがようなってきて、差ぁが縮まるどころか、開いてきとんねん」
 溜息交じりの霞には、ちょっとだけ申し訳なさそうな顔をして

「恋、そのあとボクと軍議の予定だから、怪我だけはさせないでよね」
 心配そうな声を、心配じゃなさそうな顔でいう詠に頷き。

「お二人とも、怪我しないように気をつけて、頑張ってくださいね」
 相変わらず能天気な笑顔で、能天気な事を言う月に笑い返し。

 恋は一影を相手に目をきらきらさせながら、実戦形式の試合を重ねていく。
 ねねはというと、朧と一緒にお茶をすすりながら、楽しそうな恋を見詰め、此方も幸せそうだ。
「ねねちゃんは、お兄様に恋姉さんとられて悔しく、ないの、かな」
 二段階に首を捻った朧の仕草が、ツボに入ったのか、ねねが派手にお茶を噴出す。
「まったく、朧はそう言うところが子供過ぎるのです。
 ねねと恋殿は心でふかーく繋がっているのです、それに・・・恋殿があれほど楽しそうに、武器を振るっているのは初めてなのです」
 ねねのその言葉で、朧は瞬時に理解する。

 あぁ・・・恋姉さんは、私と同じなんだ。

 今まで、誰かが追いすがってくる事さえ出来ない

 頂点に一人いた孤独

 ただ一人、お兄様だけがそれを救ってくれた

 朧は、一緒に旅をして、ずっとお話がしたかった。

 恋姉さんは、一緒に戦って、ずっと剣戟の応酬がしたいんだ。

 今まで相手がいなくて、つまらなかった分を取り戻すように。

 黄巾党討伐の合間の、ほんの些細な日常のひとコマ。
 朧はただ、それを眩しそうに目を細め。


 やはり一影の姿だけを追い、見つめるのだった。

 


   

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