歪んだパズルのつなげ方
悲恋姫†無双
第一話 日輪は天人の衣を輝かせ、その影を地に刻む
霞がかかっているのは視界か思考か。
掠れた様に見える光景に歓喜と安堵が溢れ、そこにほんの僅かに切なさが紛れ込み、締め付けるような痛みが全身でざわめく。
オレは知っていた。
三人の美しい少女達の顔を、声を、名を・・・真名さえも。そしてこれから交わされる会話を。
これは記憶。
手放したく無いと存在が消える最後の瞬間まで必死に握り締めていた、愛しい少女の記憶。
決して弱気を見せられない、そんな立場と性格に縛られた気高い少女の
先と裏と人心を読み、天下を我が物とした覇王の
不器用に『お願い』をしてきた少女の
守らなければならない約束を・・・破ってしまった少女との、最初の一頁目。
彼女の望む『世界』を造る手伝いをして、彼女の望む『平穏』を奪い去った。
全て自分の弱さが故に・・・『強さ』が欲しいと思った。
彼女を泣かせても、自分の決断は正しかったのだと胸を張って言える様な・・・では無く、彼女の笑顔を護れる様に天命を捻じ曲げられる程の。
自らの無力に歯噛みしていると、目の前の光景に変化が起きる。
混乱した表情を浮かべる『自分』が、三人の少女達を先頭にした二十騎程の騎馬隊に引っ立てられ、陳留に向かい移動し始める。
唐突に違和感を覚えたのは、その背中だった。
この視点の低さは何だ、自分は一体どうやってこの光景を見ている。
この光景が記憶だというのなら・・・何故、自分の姿がそこにある。
原因の解らない恐怖に駆られ、地面にへばりついた上半身を無理やり引き起こし、最愛の少女の名を呼ぶが、喉が張り付いて声が出せない。
肺も張り付いて息も吸えない、肘や背にまだ絡み付いてくる地を引き千切る様に強引に前に出ようとして、全く力の入らない脚が地にへばりつき・・・漸く厚みを持ち始めている事に気がついた。
悲鳴を上げようとして、酸素を求めてあえぎ、目まぐるしく思考が廻るが、一つとして役に立つことが浮かばない。
あまりに異常な現状に、パニックから立ち直る頃には、騎馬隊の上げる土煙はもはや遠くに見えるのみ。
追いつくには絶望的な物理的距離が、逆に心を落ち着かせたといって良い、行き先は判っているのだ。
大地に横たわったまま、深く息を吸い四肢にゆっくりと力を込めて行く。
そういえば最後の戦が終わった後の宴会で『体が問題を抱えている箇所を把握して、損害程度を冷静に掴む事が、とっても大切なのです』と酔っ払った黒髪の少女に言われたなと、その笑顔を思い浮かべる。
もう一つ言われた『感情を殺して刃を振るわねば、肉体が足かせになって、速さなんて出ません』と言うのは酔っ払って、笑い上戸なのかずっと笑いながら絡んできた彼女の言葉を信用できるのか、はなはだ怪しいが。
起き上がろうとして着いた手に、何かが触れ初めてそこに有る物に気がつく。
「・・・野太刀」
つい先程まで、そこには何も無かったのは間違いない。
「これが『強さ』が欲しいと願った答えだというなら、悪い冗談だ」
この世界の武のデタラメさは、この目でしっかり見てきた。『凄い威力の武器』を持った程度で引っくり返せるなら、魏は螺旋槍を大量生産してあっさり大陸制覇し得た筈で、真桜も大陸屈指の豪傑となっていただろう、だが当然そうはならなかった。
そんな物ではないのだ、あの少女達のデタラメな強さは。
起き上がり慎重に野太刀を抜き放つと、刀身までもが漆黒に彩られ、輝き一つしない。
暗闇で目立たぬように黒く焼入れした訳ではなく、光を吸収するかのように、ただひたすら黒い。
あぁ、つまり・・・こいつもオレと同じなのだな。
諦めに似た溜息を一つ漏らし、野太刀を鞘に納める、取り敢えず今はあるがままを受け入れておこう。
「よう兄ちゃん、珍しい剣と服じゃねぇか」
背後からそう声を掛けられたのは、野太刀を片手に取り敢えず陳留へ向かってみるかと一歩踏み出した、まさにそんな時だった。
刹那、思考に雷光が疾る。
オレは野盗三人組から、旅の武人に助けられ、騎馬に引っ立てられ陳留へ行った。
『北郷一刀』は、野盗に会わずに陳留へ行った、当然旅人にも会わずにだ。
・・・この世界は、記憶からずれた。
『北郷一刀』には、当然だがオレの記憶は無い、故に『彼』には変えられない、変えられるとしたら・・・愛する少女を救うには、オレが変えるしかない。
「その服と剣と金を置いて行け」
「剣からさっさと手ぇ離して、服脱げってアニキが言ってんだろうが」
チビが小剣を抜いて腹に突きつけて来る。
『北郷一刀』は彼らに抵抗出来なかった、そして最後はこの世界から消える事にも抵抗できず、諦観し、自分は役目を遣り遂げた、そう自分すら騙せない嘘で心を塗り固め、皆を・・・最愛の少女との約束を守れず、悲しませた。
「無駄なあがきしねぇで、さっさと言われた通りにしやがれ」
そう怒鳴りつけ、剣先で服越しに突くチビに、後ろから面倒臭そうな声が掛かる。
「そいつ殺して服引っぺがしちまえ。待ってやる義理はねぇ」
「それもそうだな、くたばれ」
わざわざ宣言して右手を後ろに引き、力一杯突き出そうとした所に下から掌打を顎に叩き込むと、その小柄な体は三メートルは後方にいたリーダー格の男を巻き込み地に転がった。
軽く合わせた程度の掌打が、予想外の威力を持っていた事に少し驚きながらも、最初から手加減するつもりも無かった為に、それが引き起こした結果には何の感慨もなかった。
チビの重くなった体を押しのけたリーダーは、その首が有り得ない角度に捻じ曲がっている事に気付いて、引きつったような悲鳴を上げた。
腰が抜けたように必死にずり下がりながら上げた目に、目の前に立ち鋭い目でつまらない物を見下ろし、一言も無く野太刀を抜く男の姿が映る。
震える手で懐から盗品と財布を引っ張り出し、目前の地面に投げ出すなり拝む様に手を合わせ、命乞いをする。
今、自分の目の前にいる男が、自分の命を握っている、生き残るには相手の気まぐれ以外には無い、そう本能的に悟ったのだ。
「ま、待ってください。お願いします、命だけは」
「待ってやる義理は無い、お前がそう言った筈だ」
北郷一刀なら、こいつが生き延びて同じ事を繰り返すかどうか関係なく、見逃す。
チビを殺したことを後悔すらするだろう。だからこそ皆に好かれたのかもしれない、その甘いと言える優しさに・・・だが、それが皆を悲しませる結果を生んだ。
なら・・・
オレは・・・
北郷一刀をやめる。
「今まで、命乞いをした相手をお前は見逃してきたのか」
状況の変化に全くついて行けず、リーダーの近くで立ち尽くしているデブごと、一刀の下に斬り捨てる。
刀身の血糊を振り払って納刀し、古ぼけた本と財布を拾い上げてその表紙に目を走らせた。
「太平要術、か」
本を懐に捻じ込み、財布を上着のポケットにしまうと、もう野盗三人組の事は意識の外へ追いやり、背後から近づいてくる鋭い気配の方へ振り返った。
「見事な腕前。しかし貴公なら捕らえる事も可能だったと御見受けしたが」
「偽善に興味は無い」
話し掛けてきた少女の手に握られた槍からして、助けに来てくれたのだろう、否助けに来てくれたのだ、古い記憶が思い起こされる、それが判ったが故に問い掛けを黙殺することは出来なかった。
この世界に来たばかりのオレを救ってくれたのは、趙子龍だったのか。
「星ちゃん、斬っちゃったんですかー」
後ろから追いかけてきた二人の姿を見て心が激しく揺れる、動揺を悟られないよう唇を引き結び、目を細めて二人から子龍へと視線を戻す。
二度と会えないと思っていた少女達の姿を、その目にしたとき不覚にも涙が零れそうになった。
しかし、風は心が読めるのではないかというくらい、人の心の機微に聡い、そしてその智は恐ろしいほどに深い。
「私が着いた時には既に事は終わっていた、この御仁の腕前は相当なものだ」
「助太刀に来てくれた事、感謝する。これ以上用が無いなら、これにて」
軽く会釈して歩き出す、その袖を引かれた。
「風は程立といいます、お兄さんの御名前を教えて頂きたいのですが」
「・・・一影、それ以外の名は無い」
咄嗟に口を付いて出たが、後々この二人は北郷一刀と出会うことを考えると危険か・・・
「・・・それ以外の名は無い」
星が怪訝な表情で、尋ねるともなくつぶやく。稟は自分を鑑みて偽名と判断したらしく、それ以上追及してこようとはしなかったが、眼鏡の奥の怜悧な目は、油断無く此方を推し量ろうとしている。
唯一人、風だけが真直ぐに此方の目を見上げ、目を伏せると。
「それしか名前が無いと言う事は、それはお兄さんの真名ということですねぇ。それじゃー風の事は風って呼んでくれて良いのですよー」
何をどう見て、何処までを知り得ての判断なのか、相変わらず読めない思考ルーチンの果てに、あっさりと真名を預けて来た。
「ちょっと風、軽々しく真名を」
稟はあわてて諌める、風の突飛な行動は今に始った訳では無いのだろうが、真名をいきなり預けるのはいくらなんでもやり過ぎだ、稟が口を出さねば子龍かオレが諌めて然るべきだろう。
「軽々しくないのです。お兄さんの真名を聞いたのだから、真名を教えるのはあたりまえですよー。それに、風はお兄さんに興味津々なのですー」
そう微笑みかけてくる風は、袖を離す気は無い様だった。
「一影殿、大変申し訳無いのですが、近くの街で食事でも御一緒して頂けないでしょうか」
深い溜息を一つつき、本当に申し訳なさそうに此方の説得にまわる稟、それを見て思い至る。
ふわふわの長い髪や、それに合わせた様な柔らかな色合いとデザインの服に見誤りやすいが、風は学者肌だ。
ぼーっと何も考えていない様な雰囲気や、眠たげな口調からは想像出来ない程、芯の部分は徹底的に譲らない頑固な性格をしている。
だからといって、風を嗜めずにいきなり此方の説得に回る稟の対応もどうかと思うが、無駄なことに労力を割かないあたりが、稟らしさとも言える。
「ここで話し込んで要らぬ嫌疑を掛けられても詰らない。貴女の提案に乗ろう」
何かに気付いて視線を上げた風に、小さく頷き返し四人連れ立って近くの街へと歩き出した。
掠れた様に見える光景に歓喜と安堵が溢れ、そこにほんの僅かに切なさが紛れ込み、締め付けるような痛みが全身でざわめく。
オレは知っていた。
三人の美しい少女達の顔を、声を、名を・・・真名さえも。そしてこれから交わされる会話を。
これは記憶。
手放したく無いと存在が消える最後の瞬間まで必死に握り締めていた、愛しい少女の記憶。
決して弱気を見せられない、そんな立場と性格に縛られた気高い少女の
先と裏と人心を読み、天下を我が物とした覇王の
不器用に『お願い』をしてきた少女の
守らなければならない約束を・・・破ってしまった少女との、最初の一頁目。
彼女の望む『世界』を造る手伝いをして、彼女の望む『平穏』を奪い去った。
全て自分の弱さが故に・・・『強さ』が欲しいと思った。
彼女を泣かせても、自分の決断は正しかったのだと胸を張って言える様な・・・では無く、彼女の笑顔を護れる様に天命を捻じ曲げられる程の。
自らの無力に歯噛みしていると、目の前の光景に変化が起きる。
混乱した表情を浮かべる『自分』が、三人の少女達を先頭にした二十騎程の騎馬隊に引っ立てられ、陳留に向かい移動し始める。
唐突に違和感を覚えたのは、その背中だった。
この視点の低さは何だ、自分は一体どうやってこの光景を見ている。
この光景が記憶だというのなら・・・何故、自分の姿がそこにある。
原因の解らない恐怖に駆られ、地面にへばりついた上半身を無理やり引き起こし、最愛の少女の名を呼ぶが、喉が張り付いて声が出せない。
肺も張り付いて息も吸えない、肘や背にまだ絡み付いてくる地を引き千切る様に強引に前に出ようとして、全く力の入らない脚が地にへばりつき・・・漸く厚みを持ち始めている事に気がついた。
悲鳴を上げようとして、酸素を求めてあえぎ、目まぐるしく思考が廻るが、一つとして役に立つことが浮かばない。
あまりに異常な現状に、パニックから立ち直る頃には、騎馬隊の上げる土煙はもはや遠くに見えるのみ。
追いつくには絶望的な物理的距離が、逆に心を落ち着かせたといって良い、行き先は判っているのだ。
大地に横たわったまま、深く息を吸い四肢にゆっくりと力を込めて行く。
そういえば最後の戦が終わった後の宴会で『体が問題を抱えている箇所を把握して、損害程度を冷静に掴む事が、とっても大切なのです』と酔っ払った黒髪の少女に言われたなと、その笑顔を思い浮かべる。
もう一つ言われた『感情を殺して刃を振るわねば、肉体が足かせになって、速さなんて出ません』と言うのは酔っ払って、笑い上戸なのかずっと笑いながら絡んできた彼女の言葉を信用できるのか、はなはだ怪しいが。
起き上がろうとして着いた手に、何かが触れ初めてそこに有る物に気がつく。
「・・・野太刀」
つい先程まで、そこには何も無かったのは間違いない。
「これが『強さ』が欲しいと願った答えだというなら、悪い冗談だ」
この世界の武のデタラメさは、この目でしっかり見てきた。『凄い威力の武器』を持った程度で引っくり返せるなら、魏は螺旋槍を大量生産してあっさり大陸制覇し得た筈で、真桜も大陸屈指の豪傑となっていただろう、だが当然そうはならなかった。
そんな物ではないのだ、あの少女達のデタラメな強さは。
起き上がり慎重に野太刀を抜き放つと、刀身までもが漆黒に彩られ、輝き一つしない。
暗闇で目立たぬように黒く焼入れした訳ではなく、光を吸収するかのように、ただひたすら黒い。
あぁ、つまり・・・こいつもオレと同じなのだな。
諦めに似た溜息を一つ漏らし、野太刀を鞘に納める、取り敢えず今はあるがままを受け入れておこう。
「よう兄ちゃん、珍しい剣と服じゃねぇか」
背後からそう声を掛けられたのは、野太刀を片手に取り敢えず陳留へ向かってみるかと一歩踏み出した、まさにそんな時だった。
刹那、思考に雷光が疾る。
オレは野盗三人組から、旅の武人に助けられ、騎馬に引っ立てられ陳留へ行った。
『北郷一刀』は、野盗に会わずに陳留へ行った、当然旅人にも会わずにだ。
・・・この世界は、記憶からずれた。
『北郷一刀』には、当然だがオレの記憶は無い、故に『彼』には変えられない、変えられるとしたら・・・愛する少女を救うには、オレが変えるしかない。
「その服と剣と金を置いて行け」
「剣からさっさと手ぇ離して、服脱げってアニキが言ってんだろうが」
チビが小剣を抜いて腹に突きつけて来る。
『北郷一刀』は彼らに抵抗出来なかった、そして最後はこの世界から消える事にも抵抗できず、諦観し、自分は役目を遣り遂げた、そう自分すら騙せない嘘で心を塗り固め、皆を・・・最愛の少女との約束を守れず、悲しませた。
「無駄なあがきしねぇで、さっさと言われた通りにしやがれ」
そう怒鳴りつけ、剣先で服越しに突くチビに、後ろから面倒臭そうな声が掛かる。
「そいつ殺して服引っぺがしちまえ。待ってやる義理はねぇ」
「それもそうだな、くたばれ」
わざわざ宣言して右手を後ろに引き、力一杯突き出そうとした所に下から掌打を顎に叩き込むと、その小柄な体は三メートルは後方にいたリーダー格の男を巻き込み地に転がった。
軽く合わせた程度の掌打が、予想外の威力を持っていた事に少し驚きながらも、最初から手加減するつもりも無かった為に、それが引き起こした結果には何の感慨もなかった。
チビの重くなった体を押しのけたリーダーは、その首が有り得ない角度に捻じ曲がっている事に気付いて、引きつったような悲鳴を上げた。
腰が抜けたように必死にずり下がりながら上げた目に、目の前に立ち鋭い目でつまらない物を見下ろし、一言も無く野太刀を抜く男の姿が映る。
震える手で懐から盗品と財布を引っ張り出し、目前の地面に投げ出すなり拝む様に手を合わせ、命乞いをする。
今、自分の目の前にいる男が、自分の命を握っている、生き残るには相手の気まぐれ以外には無い、そう本能的に悟ったのだ。
「ま、待ってください。お願いします、命だけは」
「待ってやる義理は無い、お前がそう言った筈だ」
北郷一刀なら、こいつが生き延びて同じ事を繰り返すかどうか関係なく、見逃す。
チビを殺したことを後悔すらするだろう。だからこそ皆に好かれたのかもしれない、その甘いと言える優しさに・・・だが、それが皆を悲しませる結果を生んだ。
なら・・・
オレは・・・
北郷一刀をやめる。
「今まで、命乞いをした相手をお前は見逃してきたのか」
状況の変化に全くついて行けず、リーダーの近くで立ち尽くしているデブごと、一刀の下に斬り捨てる。
刀身の血糊を振り払って納刀し、古ぼけた本と財布を拾い上げてその表紙に目を走らせた。
「太平要術、か」
本を懐に捻じ込み、財布を上着のポケットにしまうと、もう野盗三人組の事は意識の外へ追いやり、背後から近づいてくる鋭い気配の方へ振り返った。
「見事な腕前。しかし貴公なら捕らえる事も可能だったと御見受けしたが」
「偽善に興味は無い」
話し掛けてきた少女の手に握られた槍からして、助けに来てくれたのだろう、否助けに来てくれたのだ、古い記憶が思い起こされる、それが判ったが故に問い掛けを黙殺することは出来なかった。
この世界に来たばかりのオレを救ってくれたのは、趙子龍だったのか。
「星ちゃん、斬っちゃったんですかー」
後ろから追いかけてきた二人の姿を見て心が激しく揺れる、動揺を悟られないよう唇を引き結び、目を細めて二人から子龍へと視線を戻す。
二度と会えないと思っていた少女達の姿を、その目にしたとき不覚にも涙が零れそうになった。
しかし、風は心が読めるのではないかというくらい、人の心の機微に聡い、そしてその智は恐ろしいほどに深い。
「私が着いた時には既に事は終わっていた、この御仁の腕前は相当なものだ」
「助太刀に来てくれた事、感謝する。これ以上用が無いなら、これにて」
軽く会釈して歩き出す、その袖を引かれた。
「風は程立といいます、お兄さんの御名前を教えて頂きたいのですが」
「・・・一影、それ以外の名は無い」
咄嗟に口を付いて出たが、後々この二人は北郷一刀と出会うことを考えると危険か・・・
「・・・それ以外の名は無い」
星が怪訝な表情で、尋ねるともなくつぶやく。稟は自分を鑑みて偽名と判断したらしく、それ以上追及してこようとはしなかったが、眼鏡の奥の怜悧な目は、油断無く此方を推し量ろうとしている。
唯一人、風だけが真直ぐに此方の目を見上げ、目を伏せると。
「それしか名前が無いと言う事は、それはお兄さんの真名ということですねぇ。それじゃー風の事は風って呼んでくれて良いのですよー」
何をどう見て、何処までを知り得ての判断なのか、相変わらず読めない思考ルーチンの果てに、あっさりと真名を預けて来た。
「ちょっと風、軽々しく真名を」
稟はあわてて諌める、風の突飛な行動は今に始った訳では無いのだろうが、真名をいきなり預けるのはいくらなんでもやり過ぎだ、稟が口を出さねば子龍かオレが諌めて然るべきだろう。
「軽々しくないのです。お兄さんの真名を聞いたのだから、真名を教えるのはあたりまえですよー。それに、風はお兄さんに興味津々なのですー」
そう微笑みかけてくる風は、袖を離す気は無い様だった。
「一影殿、大変申し訳無いのですが、近くの街で食事でも御一緒して頂けないでしょうか」
深い溜息を一つつき、本当に申し訳なさそうに此方の説得にまわる稟、それを見て思い至る。
ふわふわの長い髪や、それに合わせた様な柔らかな色合いとデザインの服に見誤りやすいが、風は学者肌だ。
ぼーっと何も考えていない様な雰囲気や、眠たげな口調からは想像出来ない程、芯の部分は徹底的に譲らない頑固な性格をしている。
だからといって、風を嗜めずにいきなり此方の説得に回る稟の対応もどうかと思うが、無駄なことに労力を割かないあたりが、稟らしさとも言える。
「ここで話し込んで要らぬ嫌疑を掛けられても詰らない。貴女の提案に乗ろう」
何かに気付いて視線を上げた風に、小さく頷き返し四人連れ立って近くの街へと歩き出した。
~ Comment ~
Re: サラダさん
お久しぶりです
どういった経緯で此処を見つけられたのかは解りませんが、こうして再びコメントをいただけたことに感謝を
ものは悲恋姫ですので、前書き、コメントetc伏線は巡らせておりますよ、と言って納得して頂ければと思っております。
以前のような異常な更新ペースではなくなりましたが、少しでも面白いと思っていただけたら、書き手冥利につきます。
大分話数が増えているので、のんびり再び最初から読み直していただけたら、書き手としてこれ程うれしいことはありません。
どういった経緯で此処を見つけられたのかは解りませんが、こうして再びコメントをいただけたことに感謝を
ものは悲恋姫ですので、前書き、コメントetc伏線は巡らせておりますよ、と言って納得して頂ければと思っております。
以前のような異常な更新ペースではなくなりましたが、少しでも面白いと思っていただけたら、書き手冥利につきます。
大分話数が増えているので、のんびり再び最初から読み直していただけたら、書き手としてこれ程うれしいことはありません。
- #321 Night
- URL
- 2010.11/14 10:33
- ▲EntryTop
感激です
またこの作品を読むことができるということに感動です!好きで時間を忘れて読んでいたのですが、突然やめられてしまっていたので諦めていたのですが、ほんとについ先日最近読んでいた作品を検索したら偶然でしたが見つけることができました^^
大学で見つけた時はかなりテンション高すぎて変に思われたと思います^^;
またはじめから読ませて頂きますが、この作品を読めるというだけでバイト等めんどうな事があっても乗り越えられそうです!!
大学で見つけた時はかなりテンション高すぎて変に思われたと思います^^;
またはじめから読ませて頂きますが、この作品を読めるというだけでバイト等めんどうな事があっても乗り越えられそうです!!
- #546 @あ、曹操
- URL
- 2011.01/30 04:09
- ▲EntryTop
Re: @あ、曹操 さん
コメントに感謝を。
某所では、ちょっとしたことがありまして、現在はこちらの方で続ける事になりました。
こうしてまた読んでいただけるというのは、御縁が有ったのでしょう。
また楽しんでいただけたら書き手冥利に尽きると言うものです。
前に読んだ時とは違う何かが、貴方に残せましたら、打ち切りのままに打ち捨てなかった意味が一つ増え、此方に続けさせていただいて良かったと。
なにはともあれ、楽しんでいただけたらそれだけで嬉しい限りです。
某所では、ちょっとしたことがありまして、現在はこちらの方で続ける事になりました。
こうしてまた読んでいただけるというのは、御縁が有ったのでしょう。
また楽しんでいただけたら書き手冥利に尽きると言うものです。
前に読んだ時とは違う何かが、貴方に残せましたら、打ち切りのままに打ち捨てなかった意味が一つ増え、此方に続けさせていただいて良かったと。
なにはともあれ、楽しんでいただけたらそれだけで嬉しい限りです。
- #555 Night
- URL
- 2011.01/31 20:41
- ▲EntryTop
7周目突貫します
タイトル通りに悲恋姫7周目に入りますw
いつもコメントには名無しだったので、適当にナナフシということでw
いつもコメントには名無しだったので、適当にナナフシということでw
- #1287 ナナフシ
- URL
- 2013.10/04 17:50
- ▲EntryTop
Re: ナナフシ さん
大変遅くなりましたが、コメントに感謝を。
七度何かをアナタに残せたら、書き手としては嬉しい限り。
七度何かをアナタに残せたら、書き手としては嬉しい限り。
- #1300 Night
- URL
- 2014.05/27 21:16
- ▲EntryTop
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お久しぶりです。
今このサイトに気がつきましたよ……。
なるほど。
Night様がコメントの中で、
『~では』『~での』
を強調していたのはそう言うことでしたか……。何という罠。
とは言ったものの、また自分の好きな作品を読むことができて幸せなのですが(笑)
では、ちょっと時間も空いてしまったので最初から読ませて頂きます!
更新の方、頑張って下さい!!
では、また。